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夏の日本海、木造建築をめぐる386kmの旅

夏の日本海、木造建築をめぐる386kmの旅

こんにちは、企画室のHです。

 

現場にいた頃は、朝から晩まで建築のことばかり考えていました。

今はずいぶん肩の力も抜けましたが、その頃から一貫して感じているものがあります。

自分に足りないもの——広い視野、建築以外の知識、人の感情、人の思い——。

これは最近になって気づいたことではなく、ずっと前から自覚してきたことです。

 

その「広い視野」を持ちたいという思いもあり、これまで趣味らしい趣味を持たなかった私が一念発起してバイクの免許を取り、走り始めてから一年余りが経ちました。

最初は自分が携わった現場を一つひとつ巡っていましたが、さすがにネタが尽きてきます。

そこで今回は、この夏の暑い盛りにロングツーリングを企画してみました。

 

行程は、枚方 → 舞鶴 → 小浜 → 敦賀 → 枚方の日帰り一周。走行距離は386kmになりました。

 

走るだけではもったいない。

せっかく遠くまで行くのだから、あちこち立ち寄って観光もしたい。

そう思ってあれこれ調べ、こんなルートを組みました。

 

赤れんがパーク → 舞鶴引揚記念館 → 国宝・明通寺 → 三方五湖レインボーライン → 道の駅 はまびより → 氣比神宮

 

早朝の涼しい時間に出発し、天気も少し曇り気味で味方をしてくれたおかげで、日本海沿いは実に気持ちよく走れました。

明通寺からレインボーラインまでの間で少しだけ雨に降られましたが、短い通り雨で、むしろ涼を運んでくれてありがたいくらい。

ただ、帰り道はとにかく暑く、これはなかなか厳しいものがありました。

 

1200年の時間に語りかけられる——国宝・明通寺

今回の旅で、私は自分が持っていなかったものをたくさん受け取った気がします。

なかでも心に残ったのが、国宝・明通寺の三重塔、そして本堂に並ぶ木造の仏像たちでした。

 

明通寺の創建は大同元年(806年)、坂上田村麻呂によると伝わります。

実に約1200年前です。

もっとも、いま目の前に立つ建物はそれより新しく、本堂は1258年、三重塔は1270年——いずれも鎌倉時代の建立で、それでも750年以上を生き抜いてきた木造建築です。

仏像はさらに古く、平安時代後期の作。建物と仏像とで時代が違うのだと知ると、この一つの寺に何層もの時間が積み重なっているのだと実感します。

木という素材が、これほど長く形を保ち、今の私たちに多くを語りかけてくる——静かに背筋が伸びる思いでした。

 

とりわけ印象に残ったのが、降三世明王立像(ごうざんぜみょうおうりゅうぞう)です。

この仏像は、足元にインドの神を横たえ、それを踏みつけにしている。

最初に見たときは、正直「なんで?」というのが率直な感想でした。

 

調べてみると、踏まれているのは大自在天(だいじざいてん)とその妃・烏摩妃(うまひ)というインドの神々でした。

これは相手を苦しめるためではなく、傲慢さや執着、煩悩を打ち砕いて仏の道へ導くことを象徴しているのだそうです。

密教では「強い怒りの姿もまた、人々を救うための慈悲」と考えるとのこと。

そう知って、思わず自分に問い返してしまいました。

これまでの自分、そして今の自分に、傲慢さや執着はないだろうか——。

1200年を超えて残るこの仏像から、静かに何かを言われているような気がしたのです。

 

ちなみに、この本堂の仏像の並びはかなり珍しいものだそうです。

薬師如来の両脇に降三世明王と深沙大将が並ぶ配置は、密教寺院でもあまり例がなく、深沙大将にいたっては全国でも作例の少ない仏像とのこと。

木造の仏像に惹かれてじっくり眺めた時間は、思いがけず貴重なものでした。

 

生命力に頭を垂れる——氣比神宮のユーカリ

もう一つ忘れられないのが、敦賀・氣比神宮のユーカリの大木です。

 

敦賀市の天然記念物に指定されているこの木は、昭和11年(1936年)に陸軍関係者が武運を祈願して献木したものと伝えられています。

異国から渡ってきた樹が、敦賀の地でこれほど大きく育っているというだけでも驚きですが、私が心を打たれたのはその姿でした。

幹は途中から大きく伐られ、太い枝を失いながらも、そこから新しい緑の枝葉が勢いよく芽吹いている。

支柱に支えられてなお生きようとするその生命力に、私は圧倒されました。

まだ50年ほどしか生きていない私は、いつの間にか「たいていのことは経験してきた」と錯覚していたのかもしれません。

この木の前に立って、その思い上がりが少し恥ずかしくなりました。

 

人生に幅を

今回のツーリングでは、これまで経験したことのないことを経験し、これまで興味を持たなかったものに興味を持ちました。

それは確かに、これからの私の人生に幅を持たせてくれたように思います。

正直に言えば、一日で回るには時間も体力も足りず、なかなかハードな行程でした。

それでも、いい旅だったと胸を張って言えます。

次に計画するときは、数日に分けて、今度こそゆっくりと味わいたいと思っています。

広い視野を求めて走り始めた道の先に、1200年の時間や、倒れてなお芽吹く生命がありました。

建築の仕事も、きっとこういうところに通じているのだと思います。